日本時間5月9日午前4時に行われたUEFAチャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグ。この試合はアヤックス対トッテナムのカードとなりました。
ちなみにこの試合の前日にはリバプール対バルセロナの試合が行われ、リバプールが決勝進出にコマを進めました。サラー、フィルミーノのエース格2人を欠く中、リバプールは4-0で勝ち、「アンフィールドの奇跡」といわれる大逆転勝利を収めたのです。
ただ、今回紹介するアヤックス対トッテナムでもトッテナムが見事3点差をひっくり返し、アウェイゴール差により勝利をつかんでいます。個人的に「アンフィールドの奇跡」なみの奇跡だと思ったのですが、「ヨハン・クライフ・アレナの奇跡」というワードではあまり取り上げられていなかったので、このブログから「ヨハン・クライフ・アレナの奇跡」を普及させていこうと思います。(無謀)
【画像出典】WhoScored.com
ちなみにこちらの試合、3-3の同点で終わりましたが、アウェイゴール差(1-3)によりトッテナムが勝利しています。
以下からはトッテナムはなぜ3点差をひっくり返すことができたのか。またアヤックスは3点差もあったのにどうして追いつかれてしまったのか。といった情報を両チームの戦術をもとに解説していきます。
3点差をひっくり返されたアヤックス
ファーストレグは1-0、セカンドレグも前半で2点取って3-0で後半に臨んだアヤックス。この試合に勝てば23年ぶりのチャンピオンズリーグ決勝ということでかなり期待がかかっていました。
ただ、結果的には後半の45分で3点を失い、アウェイゴール差で敗北を喫してしまいました。
しかし、アヤックスは若手主体ながらよくここまで勝ち上がってきたと思います。各選手の戦術理解度も高かったですし、テンハーグ監督はトッテナムの弱点をしっかりと研究してきているなと感じました。最後はトッテナムの攻勢を抑えられず、ロスタイムギリギリにゴールを奪われてしまいましたが、アヤックスが勝っていてもおかしくなかったそんな試合でした。
それでは以下からこの試合におけるアヤックスの戦術を解説していきます。
この試合のアヤックスの戦術
前半は前線からプレスをかけていき、ボールを取り返したら後方から時間をかけて相手の隙を狙うといったシーンが多かったです。特にこの試合、左ウイングに入ったタディッチが攻撃の起点となっていました。
前半4分、コーナーキックからデリフトのゴールが生まれたシーンに関しても、きっかけはタディッチへのサイドチェンジから放たれたシュートから生まれています。
赤アヤックス、緑トッテナム
上の画像は4分の得点シーンにつながるコーナーキックを得た場面の選手の配置図です。ピッチ左側を見てもらえばわかる通り、そこにはタディッチしかいないのです。
正直、この試合のトリッピアーの守備での対応はかなり悪かったです。上のシーンも本来はタディッチのいるサイドにもう少し寄せておくべきところでしたが、少し離れていたところでフリーにさせてしまったため、ある程度自由を与えてシュートを打たせてしまいました。前半3分のタディッチのシュートは枠内に飛んでいたため、ロリスの好セーブがなければ早い段階で1点を決められていました。
また、前半35分のゴールシーンもトリッピアーのロストが失点に絡んでいます。右サイドバック裏に空いた広大なスペースにタディッチが走り、そこにファンデビークがパスを出し、ボックス内へと侵入したところで近くに走ってきたツィエクに渡り、冷静にゴールを決めました。
赤アヤックス、緑トッテナム
得点シーン以外にもカウンターでトリッピアーの高い位置取りの裏を狙う場面が何度かありました。ただ、前半は2得点と大きな追加点が入り、勢いに乗ったまま後半へと向かいます。
後半も前半とは変わらず、立ち上がりからプレスをかけてサイドバック裏(特にトリッピアーの裏)から攻撃を組み立てるシーンが見受けられました。
ただ、後半54分、セットプレーのシーンから素早いカウンターでルーカスモウラに1点を決められてしまいます。セットプレーでディフェンスの要であるデリフトが前線に残ってしまったため、センターバックを抜いたマズラーウィ・デヨング・シェーネの3人で4人のトッテナム攻撃陣に対応することになってしまいました。一瞬の攻撃だったため、対応のしようがないかった失点シーンでした。
この得点で勢いに乗ったトッテナムは、その後アヤックスのゴール前でのプレーが多くなります。58分にはボックス外でボールを持ったソンフンミンに対し、6人がつられ、それによりディフェンスラインが崩れてしまったアヤックスは、右サイドからのトリッピアーのクロスをジョレンテに簡単に通されてしまいます。ジョレンテのシュートはオナナの好セーブによって死守されましたが、こぼれ球を拾う際、ゴール前でシェーネと交錯してしまいます。その際にルーカスモウラにゴール前でボールを拾われゴールを決められてしまいます。
残り30分以上を残して、スコアは3-2とかなり追い込まれた状況になってしまいました。しかし、アヤックスもやられていただけではありません。敵陣ボックス内で何度かゴールのチャンスを作っていました。
赤アヤックス、緑トッテナム
こちらは後半78分、ツィエクのシュートがポストに直撃したシーンの選手配置図です。このシーンを見ていただければ分かる通り、トッテナムはバイタルエリアのスペースがカバーできていないのです。後半の開始からワニヤマを変え、エリクセンをボランチの位置に下げましたが、これによりトッテナム守備陣のもろさが見え始めます。
ただ、ツィエクがチャンスをことごとく外してしまい、後半は1点も取れずに終わってしまいます。ここで得点を取っていれば今頃アヤックスが勝っていたかもしれません。
最終的に守りを固めてボールが奪えたところでカウンターで時間を使うという感じで試合を終わらせにきます。後半89分にはファンデべークを下げ、マガジャンというディフェンダーを投入し、ブリントを一列上げ4-3-3のフォーメーションで守りを固めてきます。
しかし、ロスタイムギリギリの95分、シソコのロングボールをジョレンテが収め、そのボールがデレアリに渡り、走り出していたルーカスモウラへとパスをつなげ最後に放ったシュートがゴール右端へと吸い込まれました。
時間ギリギリだったため、後がなかったアヤックス。そのままチャンスを作れず、2ー3で負けてしまいました。
エースがケガで不在&スタメンは疲労困憊のトッテナム
トッテナムはファーストレグを0-1で折り返したため、決勝進出するためにはこの試合に勝つしかありませんでした。
しかし、エースのハリーケインやハリーウィンクス、ダビンソンサンチェスなどの主力はケガで欠場と戦術の幅が制約される状況でこの試合に挑むことになりました。
また、この試合の4日前にはプレミアリーグの試合をこなし、リーグ戦が休止していたアヤックスとはコンディションに差がついているのではないか。そういった難点もありました。
ですが、結果は3-3のアウェイゴールの差での勝利を収め、トッテナムは見事決勝進出を決めました。今年のトッテナムは補強ゼロに加えここまで多数のケガ人を出しており、ポチェッティーノ監督もやりくりに手を焼いたと思います。しかし、ここまで目覚ましい活躍を続け、ついに決勝の舞台までやってきたトッテナム。
決勝にはハリーケインも出場する見込みみたいなのでどんな試合になるか、本当に楽しみです。
それでは、この試合におけるトッテナムのとった戦術を簡単にまとめていきます。
この試合のトッテナムの戦術
前半の始めは1点差ということもあり、わりかし静かな立ち上がりでした。もちろん前からプレスをかける動きもありましたが、基本は奪えるチャンスがあれば取りに行くという守備の仕方をしていました。
ただ、前半はサイドバック裏(特にトリッピアー)を狙われ、何度もチャンスを作られてしまいます。サイドバック裏を狙った攻撃についてはアヤックスの戦術の部分で解説しましたので、そちらを振り返って確認していただければと思います。
ちなみにですが1点目、2点目が生まれた要因はトリッピアーの守備の甘さにあります。こういった部分でポチェッティーノ監督の信頼を得られず、今夏の放出候補に挙がっているのだと思います。
攻撃については、前線のルーカスモウラ、エリクセン、デレアリ、ソンフンミンが流動的にポジションを取って攻めていました。前半はソンフンミンに2度決定的なシーンがあったのですが、ポストに当たったり、キーパーに抑えられたりとなかなかゴールを決めることができません。
結局前半は2点を許し、トッテナムの得点はゼロで終わってしまいます。
後半のトッテナムは早速、中盤でシソコと2ボランチを組んでいたワニヤマが退き、ジョレンテを投入します。
これによりエリクセンをボランチの位置に下げ、ジョレンテをトップの位置に置くことになります。前線で起点となる選手が入り、ボランチで試合を組み立てられる選手が入ったことでより攻撃的なサッカーができるようになりました。
そして54分、相手のセットプレーからのカウンターでローズの前線へのロングパスがルーカスモウラへと通り、そのボールをデレアリに落とし、デレアリのドリブルが大きくなったところをルーカスモウラが取ってシュートを放ち、見事ゴールが決まりました。ゴール前では流れが速く、デレアリとルーカスモウラの息がかみ合ったシーンとなりました。
また、ゴールシーンの約4分後、敵陣のゴール前でボールを回していたトッテナムは中央にいたソンフンミンがボールを持ち、そこからワンテンポ置いたところで相手の守備陣を6人ほど引き寄せます。
そこから高い位置を取っていたトリッピアーへとパスが渡り、ディフェンスラインが崩れていたのでジョレンテへと低いクロスが簡単に渡りました。結局、ジョレンテの打ったシュートは決まらなかったのですが、アヤックスのオナナとシェーネの交錯により、2点目をルーカスモウラが決めました。
スコアは2ー3になり、「もしかすると…」という雰囲気ができていましたが、トッテナムも攻め込まれ決定的なシーンを作られることが何度かありました。というのも後半はワニヤマが外れ、エリクセンがボランチに落ちてきましたが、ワニヤマがやっていた中盤での守備は、正直、エリクセンでカバーしきれない部分があります。そのため、守備時にはアヤックスの攻撃陣にバイタルエリアから2度の決定機を作られてしまいました。2度ともタディッチのフィニッシュでしたが、1つ目はゴール右脇を通過してしまい、2つ目は右のポストに当たり、トッテナムは何とか難を逃れました。
2度目のチャンスシーン(ポスト直撃)/赤アヤックス、緑トッテナム
この2つの決定機で少なくとも1つを決めていれば結果は変わっていたと思います。
トッテナムは後半、危ないシーンを作られながらもなんとか0点で抑えていたわけですが、2点目以降なかなか得点をあげることができません。86分にはコーナーキックから決定的なチャンスを作っていましたが、結局ゴールは生まれず。アヤックスの4バックと2ボランチの守備をなかなか崩せなかったところもありましたが、トッテナムはアヤックスのカウンターが怖くて前に人数をかけれないところもあったと思います。
そうこうしているうちに、ついにロスタイムに突入します。89分アヤックスはトップ下のファンデビークを変え、マガジャンというディフェンダーを投入します。そして4-3-3のようなフォーメーションをとり、後ろ4枚、中盤3枚でゴール前で硬いブロックを作ります。アヤックスはディフェンスを重視して試合を締めに来た交代となりました。
後がないトッテナムはとにかく前に出るサッカーをしてきます。しかし、なかなか決定的なシーンは作れず、アディショナルタイムの5分を過ぎようかという時間で何とルーカスモウラが決めちゃうんです。このゴールシーンは、シソコのロングボールをジョレンテが収め、デレアリに渡り、そのボールをルーカスモウラへと出し、シュートを打って決まった得点です。
赤アヤックス、緑トッテナム
前線でジョレンテのポスト、デレアリのパス、ルーカスモウラのフィニッシュがうまくかみ合って生まれたこのゴールにはアヤックスの選手もお手上げでした。
まとめ
アンフィールドの奇跡にせよ、ヨハン・クライフ・アレナの奇跡にせよ、フットボールは最後まで何が起こるか分からないなと改めて感じました。トッテナムの逆転劇には感動しましたし、試合終了後のアヤックスサポーターの鳴りやまない拍手も見ていて気持ちが良かったです。
アヤックスは負けてしまいましたが、若手選手が多いチームなので来シーズンは各々自身が選んだ道で活躍してもらえればと思います。
トッテナムは来シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ出場権を未だ獲得していないということでまずは、リーグ戦最終節を白星で終えることが重要です。それにしても今シーズン補強ゼロのチームがここまで勝ち上がってくるなんて、本当にすごいことですよ。選手もワールドカップ明けのシーズンでケガ人も多かった中、使える選手でやりくりしてここまで来たポチェッティーノ監督の手腕はもっと評価されても良いと思います。
UEFAチャンピオンズリーグ決勝戦の試合も当ブログで速攻解説記事をアップしますので、そちらもチェックしてもらえればと思います。