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アンフィールドの奇跡は如何にして起こったのか【UCL準決勝2nd Legリバプール VS バルセロナ】

いやー。アンフィールドで起こった奇跡、すごかったですね。僕は3回くらい見ましたが、何度見ても鳥肌が立つ、そんな試合になりました。
リバプールはファーストレグ3-0で負けたにもかかわらず、その点差を見事ひっくり返し、加えてもう1点獲るという離れ業をやってのけました。しかも相手はバルセロナです。


【画像出典】WhoScored.com

そこで今回はこの試合、両チームどのような戦術で挑んだのか。またリバプールはダブルエース不在の中、なぜ4点を取ることができたのか。以下からはそのことについてなるべく簡単にまとめていこうと思います。

後がないリバプールはとにかく前へ

この試合が行われる前のファーストレグを3-0で落としたリバプールは、相手に点を取らせず最終スコア4-3で勝つというのが、この試合における最終目標だったと思います。というのもこの試合はリバプールのホーム「アンフィールド」で行われる試合だったからです。
仮にバルセロナに得点を許した場合、4-4でもアウェイゴールの差で負けが決定します。ですので、一番効率の良い勝ち方は、4点取って無失点で抑えることであり、実際リバプールにはこの選択しかなかったと思います。

ただ、今シーズンのバルサはバルベルデ監督のもとターンオーバー(主力の休養)を多めにとっていてこの試合の前に行われた週末の試合も主力を温存するメンバーで戦っていました。

詳しくはこちらの記事→【ラ・リーガ第36節】セルタ VS バルセロナの戦術解説

一方リバプールは、エース格のモハメドサラー(脳震盪)とロベルトフィルミーノ(筋肉トラブル)を欠く状態で戦うことになっていました。この2人の存在はリバプールにとって非常に大きかっただけに万全とは言い難い状況でセカンドレグに臨むことになりました。

1週間の休養を取った万全の状態のチームとエース格の選手が2人いない状態、尚且つミッドウィークに試合があった万全とはいえないチーム。普通であれば「バルセロナが勝つだろ」そう思いますよね。
ただこの試合、リバプールが4-0(合計スコア4-3)で勝ったのです。まさに「アンフィールドの奇跡」でした。

それでは以下から、なぜ勝てたのかという疑問を戦術的な観点から解説していきます。

この試合のリバプールの戦術

リバプールの基本的な戦術はハイプレスから高い位置でボールを奪い、ゴール前の素早いパス・動き出しから得点を目指すというスタイルなのですが、この試合は3点ビハインドということもあり、より前へ前への意識が強かったです。フォワードの3人が後方でボールを回すバルセロナに対して容赦なくプレスをかけ、それに対しバルセロナの選手はリスクを取らず、前方へクリアするというシーンが多く見られました。そのボールを回収してすぐさま攻めに移っていたリバプールですが、前半6分、早くも1つ目のゴールを決めます。

1つ目のゴールシーンはマティプのマネを狙ったロングパスがジョルディアルバにカットされたのですが、ヘディングミスをしてそれを拾ったマネが素早くヘンダーソンへとパスを出します。そのヘンダーソンがシュートを打ちますが、テアシュテーゲンにブロックされ、ただ、こぼれたところにオリギが詰めていたため結果的にゴールが生まれました。
しかし、1点目以降は決定的なシーンがなかなか作り出せません。その理由はフォワードのポジショニングにあります。

赤リバプール、黄バルセロナ

このシーンは前半16分のリバプールが攻め込んでいるシーンですが、見てもらえば分かる通り、ポジションが重複してしまっているんです。
他にもポジションの重複はしていないもののゴール前での動き出しが足らず、パスを出す選手がいない。というシーンは何度もありました。

一応ではありますが、16分のシーンの改善点を自分なりに考えてみたのでちょっとそちらの方を紹介させてください。

矢印で示している選手は右がシャキリ、左がオリギとなっています。この2人は普段ベンチにいるメンバーですので、こんな大舞台でいきなり完璧なプレーをしろといわれても無理でしょう。なので、かみ合っていない部分があるのは仕方のないことなのですが、上の図のように動き出せていればかなり効果的な攻撃ができていたのではないかと思います。
まず右のシャキリの方から。シャキリは右サイドに張ってプレーするシーンが多かったです。ただ、16分のシーンはヘンダーソンとポジションが被っているだけに斜めへの抜け出しが効果的だったのではないかと思います。この試合でもジョルディアルバがやっていましたが、シャキリもその動きができるようになればキックの精度も高いですし、スタメンにもちょくちょく入っていける存在になれるんじゃないかなと思いました。
そして左はオリギなのですが、オリギは流れのまま右にいたマネとポジションが被っていました。ですのでこの場合、左側にいたオリギが左のスペースへと動き出し、ボールを呼び込み、そこからゴール前にいる選手にボールを渡すことができればビックチャンスが生まれたと思います。

たらればの話になって申し訳ございません。それでは、この試合の戦術解説に戻ります。

前半は、6分にあげた1点のみとなっています。ちなみに得点を挙げてからは、バルセロナに効果的に崩され、チャンスを作られるシーンが多かったです。
特にサイドチェンジで崩され、決定的なシーンに持ち込まれるシーンが13分にありました。

こちらはサイドチェンジをする直前の選手の配置です。左のワイドに開いていたコウチーニョがフリーで受け、その後コウチーニョを追い越したジョルディアルバへパスが渡り、メッシへとパスを出しあわやゴールにつながるシーンとなりました。結果的にアリソンのセーブで難を逃れましたが、リバプール側からしてヒヤッとする場面だったと思います。
この試合、こういった危ないシーンが何度もありましたが、それをことごとく抑えていたのがアリソンでした。冒頭でも示したWhoScoredの評価点でもオリジ、ワイナルドュムに次ぐ3番目に高い評価ですので、この試合における存在の大きさが分かると思います。

このように前半はアリソンを中心に危ないシーンを防ぎながら、相手のミスから1点が奪えたという結果になっています。

後半は開始からロバートソンとワイナルドュムを入れ替えてきます。この交代はどうやらロバートソンの怪我が原因ということで戦術的な交代ではなかったと思われます。しかし、この交代が早くも吉と出ます。後半開始から8分(53分)、アレキサンダーアーノルドの高速クロスにワイナルドュムがジャストタイミングで合わせ2-0。そして2分後の55分、シャキリがあげたクロスに高い打点で合わせ再びワイナルドュムがゴールを決めます。後半開始から15分も経たないうちに同点に追いついたのです。それもケガで退いたロバートソンの代わりに入ったワイナルドュムが。

3点目が入ってからは完全にリバプールのペースとなります。アンフィールドの雰囲気も最高潮に達していて、バルセロナもかなりいろいろなものに押されて本来のプレーができていなかった、そんな感じがしました。
リバプールが押せ押せ状態でバルセロナが裏を取らせない守備に徹していた後半78分、セルジロベルトにあたったボールがタッチラインを割り、コーナーキックを得ます。そのコーナーキックの際、バルセロナのほとんどの選手はキッカーから目を離してしまいます。それを見たというか、それを狙っていたアレキサンダーアーノルドはすぐさまゴール前にいたオリギを目掛け、早いパスをけります。それを見逃していなかったオリギがしっかりと枠内に飛ばし、4得点目をあげました。
このゴールについてアレクサンダーアーノルドは「直感を信じただけ」と語っており、とっさのアイデアから生まれたゴールだったみたいです。

4点目を取って以降、守りに比重を置き、裏を取らせない守備に徹していました。そしてボールが取れそうな場面では素早く奪取し前線まで持ちこんだり、ファールをもらって時間を稼いでそのまま4-0で勝利という試合になりました。

昨年に引き続き大逆転負けを喫したバルセロナ

バルセロナファンは思い出したくもない「オリンピコの奇跡」。17/18シーズンのチャンピオンズリーグでファーストレグを4-1で折り返したバルセロナはセカンドレグで0-3で負けたためアウェイゴール差により準決勝進出とはならなかった。
そしてこの試合では「アンフィールドの奇跡」で敗北を喫してしまいました。僕はバルセロナファンでもありませんので、見ている側からしたらめちゃくちゃ面白い試合だったのですが、バルセロナファンからしてみれば最悪の結末だったかもしれません。

ただ、バルセロナはこの試合どこがダメだったのか。気になっている方もいると思いますので、バルセロナの戦術についても簡単にまとめておこうと思います。

この試合のバルセロナの戦術

前半は攻撃時4-3-3(RWGのメッシは自由に動く)、守備時4-4-2のかたちでフォーメーションを組んでいました。立ち上がりから積極的にハイプレスを仕掛けるリバプールに対して前半はサイドチェンジやカウンターから何度かチャンスを作り出していました。サイドチェンジについては先ほどリバプールのところで解説した通りです。カウンターについてはリバプールのセットプレー直後を狙った攻撃が何度かありました。前線の3人に加え、ジョルディアルバが加わった48分のシーンはゴールまであと一歩でした。
ただ、どの攻撃も相手ディフェンダー、ゴールキーパーに抑えられてしまい前半は無得点で終わります。

守備に関しては前線のコウチーニョが一つポジションを下げて4-4-2で守っていましたが、ゴール前で守る選手は後方の8人でした。4-4の選手たちでゴール前を固めてスアレス、メッシは相手が後方でつなぐときにプレッシャーをかけるといった感じです。
前半は結果的に1失点をしてしまいましたが、その失点はジョルディアルバのミスによるもので、4-4-2の守備はそれほど崩されていませんでした。
ただ後半、ワイナルドュムが投入されたことにより4-4-2が崩され始めます。

赤リバプール、黄バルセロナ

こちらの画像は2点目の各選手の配置図を示したものです。おそらく右サイドでクロスをあげたアレクサンダーアーノルドはゴール前にいるマネを狙ったのだと思いますが、手前にいるラキティッチにディフレクションしてワイナルドュムが走りこんでいたスペースへとぴったり転がります。そのボールに合わせ後半開始8分で1点差に迫られます。
先ほどは、シャキリとオリギを例に出してポジショニング、動き出しが悪いと解説しましたが、この試合のワイナルドュムはボールが来そうな場所にいち早く走り、ポジションを取っているシーンが何度も見られました。バルセロナ側からすると抑えづらく、非常に厄介な選手だったと思います。
また、55分にも前線に張っていたワイナルドュムにヘディングで合わせられ3点目を決められます。55分のシーンはバルセロナのディフェンダーも完全に対応が遅れていました。シャキリのクロスの精度も素晴らしかったですが、ワイナルドュムのディフェンダーとミットフィルダーの間で待つポジショニングの良さも光った場面となっています。

このようにワイナルドュムが入ってからバルセロナは完全に押され気味で試合を優位に進められてしまいます。それを見かねたバルベルデ監督は守備を固めるため59分コウチーニョを下げ、セメドを投入します。これによりセルジロベルトが一列上がり、常時4-4-2のファーメーションで戦うことになりました。
そしてバルセロナは後方からパスをつなぎポゼッションサッカーを続けようとします。しかし、リバプールの勢いは緩むことなく前線からのプレスは終始続きます。リバプールのプレスをうまくかわせないため、今度は74分ビダルに代えてアルトゥールを投入します。この交代の狙いはおそらく相手のプレスをいなしながら支配率を上げ、ゴールにつながるシーンを増やしたいというものだったと思います。

しかし、78分ビダルが抜けたところに入ったセルジロベルトがアーノルドと対峙し、アーノルドが裏を取られない守備をするセルジロベルトへボールを当てリバプールはコーナーキックを得ます。そのコーナーでアーノルドがバルセロナの選手がほとんど誰も準備していなかったことを確認し、一瞬の隙をつきクイックリスタートを選択します。その狙いが的中し、バルセロナは4点目を献上するかたちになります。
おそらくビダルであれば、積極的にボールを取りに行くのでコーナーを与えるまではいかなかったのではないか、と少し思いました。大げさかもしれませんが、個人的には交代が裏目に出た4点目のシーンだったと思います。

攻撃面では最後までアリソンを中心とするリバプール守備陣を崩すことができず、惜しいシーンもありましたが、結果的に90分トータルで無得点で終わりました。

まとめ

リバプールの神がかり的な勝利で18/19シーズンのチャンピオンズリーグ決勝進出はリバプールとなりました。この試合は誰もがバルセロナの勝利を予想していた中、リバプールはエース級の選手を2人抜いて勝ち上がりました。ただの奇跡ではない気がします。
それとアンフィールドの雰囲気はリバプールの選手に大きな力を与えていました。逆にバルセロナにとっては重圧として重くのしかかり、本来のプレーをさせていなかったような気がします。アンフィールドの奇跡はアンフィールドの雰囲気が起こさせたといっても過言ではありません。

僕はリバプールファンとかではありませんが、試合終了後、クロップ監督、選手、スタッフ、サポーターみんなで喜んでいる姿を見て感動しましたし、フットボールってすごいなと色々考えさせられました。まだ優勝したわけではありませんが、正直もう満ち足りた気分です。
決勝は同じプレミアリーグのトッテナムということで注目の集まる一戦になっています。できればリバプールVSトッテナムの試合はリアルタイムで見て、なるべく早い段階で戦術解説の記事をアップしようと思いますので興味のある方はそちらの記事もチェックしていただければ幸いです。

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